2022年6月5日 西日本新聞【オピニオン】にFeRC磯貝浩久理事長の寄稿が掲載されました。
思い込み廃し、正しい知識を
eスポーツの本格的なスタジアムが昨夏、福岡市にオープンし、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスやサッカーのアビスパ福岡が参入したプロチームが次々に発足するなど、eスポーツが九州でも広がりを見せている。
eスポーツは「エレクトロニックスポーツ」の略で、広義には電子機器を用いて行う娯楽、協議、スポーツ全般を指す。要するに、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。
スポーツは身体を大きく使い、額に汗して競い合うイメージが強い。ゲームで戦う℮スポーツがなぜスポーツなのかは、スポーツの本質から考えることが大切だ。スポーツ(sport)は、仕事など必要不可欠な事柄から離れることから転じて、気晴らし、遊び、楽しみ、休養を指すラテン語のdeportare(デポルターレ)が語源とされる。つまり、気晴らしや楽しさがスポーツの本質である。その意味で、ゲームの対戦を楽しむ℮スポーツもスポーツと見なされるだろう。のみならずeスポーツは、時間や場所を選ばず、遠くにいる人とも競技ができ、また年齢は性別を問わず楽しめるという、これまでのスポーツにない魅力や可能性を秘めている。
一方で、ゲーム障害が問題とされている。世界保健機関(WHO)は2019年「ゲーム症/ゲーム障害」を新たな依存症と認定した。ゲームにのめり込み過ぎて日常生活に支障が出る人もおり、ゲーム障害に陥る危険性は理解する必要がある。臨床心理士などの指導で予防策をとることも有効だろう。eスポーツ選手の中には毎日の練習時間を決め、一定時間ごとに休憩するなど、工夫してプレーする人も多い。「ゲーム=悪」と決めつけず、ゲームとの関わり方への自己コントロールを失わないことが重要になる。
eスポーツには負の側面だけでなくプラス面も多く指摘されている。ゲーム中に脳の中央実行機能が活発に活動して脳の活性化に役立つことが報告され、空間認知能力などの認知機能が向上するとの指摘もある。高齢者の認知症予防や認知機能の改善に向けての研究も進められている。
eスポーツについては、固定観念や思い込みで判断するのではなく、正しい知識を得て、良しあしを客観的に理解することが大切である。
磯貝浩久 PROFILE
九州産業大学人間科学部教授。福岡eスポーツリサーチコンソーシアム(FeRC)理事長。専門は行動認知心理学、スポーツ心理学。共著に「eスポーツの科学」など多数。