【研究者の眼】杉本 晃一 鍼灸師②
eスポーツ共同研究団体FeRCに参画する研究者の知見をご紹介する企画「研究者の眼」
FeRCイベントで高人気の鍼灸体験コーナーでも知られる鍼灸師杉本晃一先生のインタビュー②です。
『eスポーツ×鍼灸』にチャレンジする危機感とは?「フリーランス鍼灸師が注目するeスポーツ×鍼灸」の背景とは?異業種交流にも積極的な杉本先生におうかがいしました。※①はこちら
文責:FeRC事務局
鍼灸の現状
事務局:杉本先生は鍼灸業界への強い危機感もお持ちですね。
杉本:日本では昔からある鍼灸ですが、需要が低迷しているのが現状です。
業界の調査で「1年以内に鍼灸を受けたことがありますか?」という質問に「はい」と答えた人は約5%しかいないというのが結果として出ています。
しかし需要は低迷しているのに毎年約3000人ずつ鍼灸師は増えていて、供給過多ともいえるかもしれません。
需要はあるはずなんですよね。前回お話したようにVDT症候群で慢性的に体に症状を抱えている人や、病院行くほどでもないけど体調はなんとなく良くないみたいな症状ともいえないようなものを抱えている人はたくさんいます。
じゃあそういう人達がどうしてるかというと、60%ぐらいの人は何もせず我慢しているという調査結果もあるぐらいなので、その我慢している人達に鍼灸を受けてもらえるようになれば、鍼灸の需要も増えてみんなが健康になれて幸せな世界になるんですよね。
そういった潜在的な需要をうまいこと掘り起こせてないのが鍼灸業界の課題ではあります。
鍼灸って効くの?
事務局:おっしゃるとおり鍼灸に馴染みのない方も多いと思います。そうした方のために、鍼灸が具体的にどんな効果があるのか教えていただけますか?
鍼灸治療と聞くと「鍼って痛そう」「お灸って熱そう」というネガティブな怖いイメージを持たれている方もたくさんおられますし、「そもそも効果あんの?」「気のせい・まやかしじゃね?」みたいに懐疑的に思われている方もたくさんいます。
実際どうかというと、鍼灸に関する研究もだいぶ進んできており、鍼灸の刺激が体に入ることで色んな反応が体に起きていることが分かってきています。
どんな変化があるかというと、
- ✅筋緊張緩和
- ✅血流改善
- ✅痛みを感じにくくする
- ✅自律神経に働きかけてリラックスしたり内臓の動きを変化させる
などが期待できます。
1つずつ説明すると長くなるので「軸索反射」「下行性痛覚抑制」「体性-自律神経反射」「TRPチャネル」なんかのワードと一緒に「鍼」「灸」でググってみてください(笑)
病院などで行われるいわゆる標準治療と鍼灸治療を併用することで、手術後の経過が安定したり、薬の量を減らすことができたりと、その効果は少しずつ医療現場でも認められてきています。
あとこれはあくまで私の感覚ですが、鍼灸というのは全体のバランスを整えるようなイメージなので、1つの症状で施術を受けたら他のところも良くなったみたいなことはよくあります。例えば、流行りの美容鍼灸の施術を受けてお肌の調子が良くなったのと合わせて便通も良くなった。とか、肩こりの施術を受けてからよく寝られるようになった。とか。
鍼や灸をしたその局所だけじゃなく全身に効果が出るので、なんかもうあちこち調子が悪いみたいな人ほど鍼灸の効果を実感しやすいかもしれません。
eスポーツ×鍼灸のこれから
前回にも話しましたが、eスポーツプレイヤーが持つ症状と鍼灸治療はとても相性がいいんですよ。eスポーツをキッカケに鍼灸を知るというのもなんだか不思議な感じはしますが、出展させていただいたイベントなどで来場者の方から言われるのは、
「ゲームしてると肩凝るし、腰も痛いし、眼も疲れる!たしかにそーいう症状に鍼灸は良さそう!」
といった言葉です。そういった、言われてみたらそうだよねと気づいた人達に鍼灸治療を受けるキッカケ作りをするのが今の自分の役割かなと思っています。あとはどんどん鍼灸師がそれに続いて乗っかってきてくれるといいんですけどね。
そして私が鍼灸学校の教員をやってたからというのもあるかもしれませんが、鍼灸を受ける人が増えて欲しいのはもちろんですけど、そこから鍼灸師を目指す人も増えて欲しいという願望も込めて、eスポーツプレイヤーのセカンドキャリアとして鍼灸師というのもありかなと。
野球やサッカーなどのリアルスポーツの経験者がプレイヤーからサポートする側のトレーナーになることはよくあるパターンです。競技特有の体の使い方や悩みなどは経験者にしかわからない部分もあるので、プレイヤーの経験を活かして鍼灸師という立場でeスポーツ業界に関わるという選択肢もあるよ。というのも知ってもらいたいです。(③に続きます)
【杉本晃一】すぎもとこういち 鍼灸師
2008年明治鍼灸大学(現:明治国際医療大学)卒業。大阪で鍼灸師・柔道整復師として2年間働くも臨床に向いてないと感じ、教員を目指し明治国際医療大学大学院へ。教員資格取得後は2012年から九州医療専門学校鍼灸師科で教員として11年間勤務。現在はフリーランスとして活動。マンガ4000冊以上を所有、「マンガの中の鍼灸」のテーマで学会発表(日本マンガ学会2015~2016)。SNSでは「#喫煙ルームでお灸」でお灸の普及活動をしている。趣味はデカ盛りと阪神タイガース。Twitterアカウント https://twitter.com/mogisu1119