【研究者の眼】平良美津子 視能訓練士①
参画研究者の知見をご紹介する企画「研究者の眼」
今回はフェルク設立時、唯一の眼の専門家/視能訓練士として参画した平良美津子先生にお話をうかがいました。
『eスポーツと眼』は、eスポーツに関わる実に多くの人が気にしているテーマです。子どもたちの夢を大切にしたいと語る平良先生がFeRCに参画した想いと背景についてお話しいただきました。文責:FeRC事務局
視能訓練士という職種
事務局:平良先生、本日はよろしくお願い致します。平良先生はFeRC設立時から参画いただいているお一人ですが、さっそくながら先生の専門領域、視能訓練士という職種について、ご紹介頂けますでしょうか。
平良:こちらこそ宜しくお願いします。
「視能訓練士」(certified orthoptist 略称CO)は1971年(昭和46年)に設立された国家資格です。私たちの世代はCOではなくORTという略称の方が馴染みがありますね。
子どもからお年寄りまであらゆる年齢層の方々への一般的な眼科検査、小児の弱視・斜視の視能矯正や視機能の検査などをおこなう国家資格を持つ専門技術職です。主に眼科で勤務する両眼視機能のスペシャリストと紹介される事が多いのですが、主な業務として①視能矯正②視機能検査③健診業務④ロービジョンケアの4つがあり、「視能訓練士法」という法律の下、資格設立以来1万6千名以上の国家資格合格者がいらっしゃるそうです。※通算 視能訓練士協会の実態調査では約7,700名の視能訓練士が実際に働いているとされています。
残念ながらまだまだ知られていない職種の一つでもあります。もっと頑張って知って頂ければ!とも思っております。
私も専門学校卒業・国家試験合格以来、眼科医の先生のもと市立病院や眼科クリニックで働いてきました。眼科を受診する最も多い世代は65歳以上のご高齢患者様。水晶体が加齢と共に濁る白内障や眼圧が高く視神経が傷つけられる緑内障など様々な眼疾患があります。続いて10歳以下の小児が多く、両眼視機能獲得のための発達段階で正常な発達が邪魔される弱視・斜視といった治療などが挙げられます。
私は新卒で入職した北九州市立若松病院ではこのご高齢患者様を中心とした検査などを担当し、その後人生の師として尊敬する大里眼科クリニック辰巳貞子先生のもとでは小児眼科の検査を中心に経験する事が出来ました。眼科医の先生方のご指導や学会参加などを通じて、まだまだ未熟ながらとても良い勉強をさせて頂いています。
小児眼科で聞く「eスポーツ選手になりたい!」
事務局:平良先生といえば小児眼科、とFeRC内でもよく知られていますがその平良先生がなぜeスポーツ研究のFeRCに参画されたのでしょうか?
平良:小児眼科では0歳の乳児から3歳~8歳ぐらいのお子様が多いのですが、私は検査や訓練をスムーズにするためにもお子様たちとのコミュニケーションを重視しています。「将来何になりたい?」とよく聞くようにしているんです。「ケーキ屋さん!」「プロ野球選手!」など色とりどりの夢を聞かせてくれて私自身の仕事のモチベーションにもなっています。
そんななかで最近特に「eスポーツ選手になりたい!」というお子様が目立って増えてきたことに驚いていました。どのお子様も眼をキラキラさせて話してくれるんです。これがFeRC参画の動機になりました。
わたし個人は幼い頃からほとんどゲームで遊んでこなかったので「eスポーツ??なにそれ??」と全く知らなかったんですよね(笑)よく「FeRC参画されるぐらいだから、平良さんもゲーム好きなんですね~!」と言われるのですけど。
子どもには無限の可能性があって、無限の未来・夢があります。お子様がどんな夢をもっていても、全てを肯定したい。どんな夢でも否定せず、好きなことを伸ばして欲しいと願っています。「これが好き!」「あれをやりたい!」そういった興味や気持ちが子どもの心身の発達を大いに促すのではないかと信じています。
eスポーツをよく知らなかった頃から「そっかぁ、素敵だね!」とこちらまで嬉しくなる想いで聞いていました。
保護者には最も心配なジャンルの一つ
お子様とそういう話をしていると、直後に保護者様が「もう~ゲームばっかりして!」と声が上げるパターンも多いです。そう、ゲームが好き!というお子様をもつ保護者にとって、まずは心配事が先立つことがとても多いのも事実なんです。
FeRCでも臨床心理士神崎保孝先生が「ゲーム障害」について丁寧に解説されていてたいへん勉強になります。一方でかなり過激な口調で警鐘を鳴らすような本が発売されてします。このゲーム障害と同様に、「ゲームをすると眼が悪くなるのではないか」と懸念される保護者様が一般的ではないでしょうか。
NHKなどをはじめ、マスコミでも「子どもたちの近視が増えている」などの特集が放映されたりしました。実際に日本眼科医会をはじめ関連学会では子どもの近視が増加している事が報告され、眼科医の先生方や視能訓練士による文部科学省の実態調査が行われています。
これとは別に、FeRCに参加していると様々な方(研究者・トッププレーヤーなど)から「何か眼が良くなるトレーニングとかありますか?」「どの目薬を買えばいいですか?」などの質問を頂く事があります。eスポーツやゲームに関わる人々にとって、眼に対しての関心の高さがうかがえます。
ごちゃごちゃな状況を整理したい
事務局:eスポーツはリアルスポーツ以上に視覚に依存する割合が多い気がするので、どなたも眼についての関心が高いのでしょうね。それと、実際に眼の疲れや痛みなどを経験しているプレーヤーが多いと思います。平良先生は眼の専門家としてeスポーツをどのように考えておられますか?
平良:まず、ゲーム=全て眼に悪いというざっくりとしたイメージはあまりに暴論な気がします。神崎先生もインタビューで指摘されていた通り、子どもたちが大好きなゲーム=全て眼に悪い、というモラルパニックにならない事を願っています。
眼に悪いかどうかでいうと勉強ですら、やり方次第で「眼が悪くなった」という事例も少なからずあります。野球など屋外スポーツにより紫外線が眼に与える影響を研究なさっている眼科医の先生もいらっしゃいますし、ゲームだけが全て眼に悪いという理解はちょっとごちゃごちゃしてしまっているなという印象です。
そもそも「眼が悪くなる」という表現自体がかなりざっくりしていて、眼科関係者泣かせな言葉なんです(笑)。
これを徐々にでも整理していくには、眼の構造や見える仕組みなど、基本的な眼についての知識が一般の方々に正しく広まる事が大切な第一歩だと考えています。
子どもの眼の発達をまず知って欲しい
事務局:平良先生は、まず子どもの眼の発達に対する理解が重要だ、とおっしゃってますね。
平良:はい。年齢に関わらず眼についての基本的なご理解としてまず知って頂きたいのはそこです。
子どもの眼は出生直後からよく見えているわけではありません。
新生児は視力0.02~0.04程度といわれ、物を見る事で視機能が発達していきます。網膜黄斑部が完成して中心窩でものを見る事が出来るようになり、両眼で同時に見る事を獲得し、精密な立体視(遠近感を感じる能力)までしっかり獲得するのは6歳~8歳前後といわれています。これが両眼視機能の獲得です。
ー両眼視機能とは立体を感じる能力ー
左右の眼で見た像を、脳で1つの像にまとめることを両眼視機能といいます。この両眼視機能を獲得することで、奥行き感や立体感など3Dを感じ取れるようになります。両眼視機能は斜視や弱視がない場合は6歳頃までに獲得されます。この生まれてから眼が発達し両眼視機能を獲得する妨げとなるのがいわゆる弱視・斜視です。
詳細は一般社団法人みるみるプロジェクトのホームページでご紹介しています。
私たちがふだん使っている「見える」「見る」という機能は、生まれてから時間をかけて徐々に獲得していくもの、という事をまずはご理解いただきたいと思います。
事務局:平良先生が語る、eスポーツを愛する人々にお伝えしたいコト、②に続きます!
【平良美津子】たいらみつこ 視能訓練士
北九州市出身/大分視能訓練士専門学校卒業。北九州市立若松病院などで勤務後、1年間トラックドライバー経験。医療法人大里眼科クリニック(北九州市門司区)勤務、師と仰ぐ辰巳貞子先生のもとで小児眼科を学ぶ。福岡市立こども病院眼科を経て、現在複数の眼科クリニックで勤務。制作/監修した「みるみる手帳」(子どもの弱視斜視治療のための管理手帳)は全国300以上の眼科医療機関で活用中。後進の視能訓練士育成/異業種交流(弱視就学支援・eスポーツ研究等)にも積極的に関わる。日本視能訓練士協会会員/日本弱視斜視学会会員/一般社団法人みるみるプロジェクト参与/福岡eスポーツリサーチコンソーシアム参画会員。Twitterアカウント https://twitter.com/ORTM13?s=20