西日本新聞 磯貝理事長寄稿掲載

2022.6.24

2022年6月5日 西日本新聞【オピニオン】にFeRC磯貝浩久理事長の寄稿が掲載されました。

思い込み廃し、正しい知識を

eスポーツの本格的なスタジアムが昨夏、福岡市にオープンし、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスやサッカーのアビスパ福岡が参入したプロチームが次々に発足するなど、eスポーツが九州でも広がりを見せている。

eスポーツは「エレクトロニックスポーツ」の略で、広義には電子機器を用いて行う娯楽、協議、スポーツ全般を指す。要するに、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。

スポーツは身体を大きく使い、額に汗して競い合うイメージが強い。ゲームで戦う℮スポーツがなぜスポーツなのかは、スポーツの本質から考えることが大切だ。スポーツ(sport)は、仕事など必要不可欠な事柄から離れることから転じて、気晴らし、遊び、楽しみ、休養を指すラテン語のdeportare(デポルターレ)が語源とされる。つまり、気晴らしや楽しさがスポーツの本質である。その意味で、ゲームの対戦を楽しむ℮スポーツもスポーツと見なされるだろう。のみならずeスポーツは、時間や場所を選ばず、遠くにいる人とも競技ができ、また年齢は性別を問わず楽しめるという、これまでのスポーツにない魅力や可能性を秘めている。

一方で、ゲーム障害が問題とされている。世界保健機関(WHO)は2019年「ゲーム症/ゲーム障害」を新たな依存症と認定した。ゲームにのめり込み過ぎて日常生活に支障が出る人もおり、ゲーム障害に陥る危険性は理解する必要がある。臨床心理士などの指導で予防策をとることも有効だろう。eスポーツ選手の中には毎日の練習時間を決め、一定時間ごとに休憩するなど、工夫してプレーする人も多い。「ゲーム=悪」と決めつけず、ゲームとの関わり方への自己コントロールを失わないことが重要になる。

eスポーツには負の側面だけでなくプラス面も多く指摘されている。ゲーム中に脳の中央実行機能が活発に活動して脳の活性化に役立つことが報告され、空間認知能力などの認知機能が向上するとの指摘もある。高齢者の認知症予防や認知機能の改善に向けての研究も進められている。

eスポーツについては、固定観念や思い込みで判断するのではなく、正しい知識を得て、良しあしを客観的に理解することが大切である。

磯貝浩久 PROFILE

九州産業大学人間科学部教授。福岡eスポーツリサーチコンソーシアム(FeRC)理事長。専門は行動認知心理学、スポーツ心理学。共著に「eスポーツの科学」など多数。

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【企業がe!】リーフラス株式会社①井上一馬さんインタビュー

2021.2.11

【企業がe!】リーフラス株式会社①井上一馬さんインタビュー

FeRC参画企業の情熱や取り組みをご紹介する【企業がe!】

第6回は、スポーツスクール事業を中心にリアルスポーツを通じて全国で事業展開を手掛けるリーフラス株式会社井上一馬さんにお話をうかがいました。

全国46,000人以上の会員数を有するリアルスポーツスクールの雄・リーフラスが捉えるeスポーツビジネス像とは?!

創業以来、一貫して捉えてきた地域の抱える社会的課題とは?!

リアルスポーツ事業者ならではの興味深いお話の数々、新たな気づきを与えてくれる充実のインタビュー①です。


eスポーツ/FeRCとの関わり

‐‐‐井上さん、今日はリモートインタビューですがよろしくお願い致します。リーフラスさんはFeRC設立時から参画頂いていますが、そもそものきっかけは何だったのでしょう?

こちらこそ宜しくお願いします。FeRC理事長の磯貝浩久教授とは、以前からメントレアプリ(メンタルトレーニングを行うアプリ)がきっかけでお付き合いさせて頂いてまいりました。そのなかで2020年のFeRC設立時にお声かけいただき、新しい学びになるかも知れないと思い参画する事になりました。

FeRC設立総会 井上さんは写真右から2番目

それまでわたしはeスポーツに対して特別な知識もありませんでしたし、「ゲーム」と一くくりに捉えていたこともあり積極的に後押ししていくべきものというイメージは持っていませんでした。一般的に保護者に多い懸念のとおり、やり過ぎたらいけない、眼も悪くなるよね、メリットよりデメリットの方が大きすぎるとシンプルに思っていたところがありました。

ですが設立直後から、FeRCで研究者の方々から様々なお話をうかがっていると、見方が大きく変わり、もっと知りたい/可能性を感じる!という想いを持つようになりました。

FeRC会員限定セミナーで企業講演も

‐‐‐eスポーツのお話の前に、リーフラスさんと言えばリアルスポーツスクールの雄として有名ですが、このコロナ禍での影響は大きいのではありませんか?

プロスポーツ界では観客が入れないというダメージを大きく受けてしまっていますよね。当社スクールも2020年春ごろ、子供たちの運動/スポーツはちょっと不安だな怖いなという方もいらっしゃって休会するお子さんも多かったです。

しかし夏以降、小中学校の休校があって、“ずっと家にいるのは良くないよな”といろんなお父さんお母さん方が感じて、安全であればなるべくスポーツをやらせたいという需要の高まりを感じた一年でしたね。運動としてだけでなく、実際に顔を合わせた社会性/コミュニケーションも大事、というですよね。

部活動ではないスポーツスクール

‐‐‐リーフラスさんの事業は、スポーツスクール事業/イベント事業/コマース事業/アライアンス事業とか本当に多岐に渡っておられますね。まずはスクール事業についてご紹介頂けますか?

そもそもこのリーフラスは2001年に福岡で創業した企業です。代表の伊藤清隆は、前職学習塾の経営をしていました。スポーツを身近に/競技志向だけでなく楽しくやれる環境/暴言体罰というものを無くしていくために、専門とする指導者が教えていく事がサービスの向上になり、新たな雇用が生まれて、日本のスポーツが幅広くなっていくんじゃないか、と創業されました。

最初のスクール事業はサッカースクールから始まりました。わたし自身、この創業期は現場でサッカーを教えていました。学校の部活とは別のスクールです。

‐‐‐学校の部活とはまた違うのですか?

学校の部活動には本当にいろんなものがあるので一概には言えないところであるんですけど、昔の部活動は“毎日練習して土日も休まない方がいいよ”というような価値観が特に強かった時代でした。

当社は最初から練習は週1日、と決めました。それ以外の曜日は他の種目しても良いし、音楽系の活動をしても良いという形で、一つにとらわれず色んな事をやれる環境を子どもたちに提供出来たら、というところが大きな特徴だったと思います。

当社スクールの指導にあたる人材には社内研修制度があります。教育的な勉強や安全面などの社内基準を厳しく定めています。この基準に合格した人だけが指導して良い、というルールにしています。

‐‐‐2001年創業当初、不安はありませんでしたか?

それはもう、新しい形態でしたので、当時は当然ですが不安でした。

ただ、わたし自身、サッカーをやっていたのですが部活動所属経験がなくて、当時珍しいクラブチームに所属していました。週2~3日の練習だったのですがそれでも充分サッカーが楽しかったし、ひとつでなく多くの学校から子どもが集まるので色んな友達が出来る。週2~3日なのでしっかりリフレッシュしながらサッカーもしっかり上達できる。そういう実体験をもとに自信を持ってやっていったら、ちょっとずつ結果がついて来た、という感じでした。

ありがたいことに事業開始後1年程度で1,000名ぐらいの会員数になりました。もっと自由にスポーツをさせてあげたい、という保護者さんからのニーズの高さを再認識した出来事でした。

当社スクール指導は「認めて/褒めて/励まし/勇気づける」をテーマにしています。

一般的に自分の子どもに対しては野球でもサッカーでも厳しく言ってしまったりしがちですよね。

そこをちゃんと、子供が尊敬する先生に褒めてもらう・認めてもらうと、やっぱりすごく子供の成長をとてもいいし、保護者さんも気持ち良く送り出せる。そういう事だったのかなと思いますね。

女子サッカースクールも多くの支持を集める

その後、現在は全国で46,000~47,000人の会員数に達し、サッカーだけでなく野球/剣道/バスケットボールなど10種目程度に拡大しています。

当社スクールの傾向として、軽度の障害をお持ちのお子様も一緒に入られているのも特徴の一つかもしれません。

学校の部活動支援とは

‐‐‐そして学校の部活動支援事業を展開されていますね?

学校の先生方は年々求められるものが増えていて、お仕事としてたいへんになる一方です。授業/クラスなどの運営/部活動とやっていく中で、過重労働も問題になっています。

部活動顧問は、先生ご自身が経験した事のある種目であればまだ教えやすいのですが、テニスやったことが無いのにテニス部、等の事例が多々みられます。先生方も、子どもたちが一生懸命だから教えたいけど上手く教えてあげられない、子どもたちの熱意に充分応えてあげられない。肉体的疲労とともにそんな葛藤も生まれてきますよね。そうして心身共に余裕が無くなってくるなかで、キツくあたってしまったりとか暴言が出たりとか、そういった複合的な課題が学校にはまだまだあると思っています。私立学校はまだ運営に自由度があると思いますが、公立学校はその辺りの課題が本当に大きいです。

経験のない種目の顧問というミスマッチ。それでも子どもたちに申し訳ないと取り組む結果、教務が後回しになってしまい長時間化する勤務。土日も練習や試合で休日もない。ご家族のある先生などはご自身の子どもの教育的悪影響すら考えられる。先生方の労働環境はあまりに過酷です。

当社の部活動支援事業は、週1~2回の頻度でサッカー部や野球部にスタッフを派遣しています。練習のお手伝いをしたり、顧問教諭と一緒に練習メニューを作成したりします。生徒一人一人の生活指導を含めた管理監督は顧問の先生に引き続きおこなってもらうとして、当社スタッフは専門性の高い練習方法だとかプレーの指導などにあたり、先生と二人三脚で部活動運営していきます。より充実した部活動を子どもたちに提供するサポート事業です。

部活動顧問と二人三脚

公立中学・高校への支援ですから、各市町村の教育委員会との協議で進めています。

もともと、外部指導員という仕組みが国内にありましたが、実際課題がいろいろ出ていました。指導員は個人の方が地元の行政に登録して、登録された中から各学校に割り振られる制度でした。これはあくまで所属が個人なので、考え方に個人差が大きい/学校方針と合わない/子どもたちを指導するための研修教育を受けたことがない等の課題が出てきたのです。実際にどういう指導員を採用したらよいのか、どういう研修をしたら良いのかというあらたな悩みです。

そこで当社のような企業・組織として運営してきた存在が中心となってやった方が良いのではないか、という流れに変わってきています。

(編集注:従来「外部指導員」として存在したが身分が法律上不明確だった。平成29年4月より学校教育法施行規則に「部活動指導員」が新たに規定された。中学校/高等学校等において校長の監督を受け、部活動の技術指導や大会への引率等を行うことを職務とする)

当社は社会的課題の解決をテーマに展開してきました。いま最も課題として強く求められていると感じているのは、やはりこの部活動のあり方です。この20年で、ずいぶんと部活動現場から暴言が減ってきたいう実感は多少あります。暴力はもちろんほとんど無いと思いますが…そういう部活動は淘汰されますし、指導をサービスと捉える事が増えてきています。部活動はもともと、位置づけは学校活動外なんです。そこで当社は、“部活動からスポーツに”という言葉を使っています。スポーツ=楽しむ、開放的、多様化です。決して部活動を否定するのではなくて、スポーツなのだからもっと民間に開放して、本来のスポーツの姿として広めて行きたいと志向しています。

種目は一つに絞らなくていい

もう一つ、プロスポーツチームとの連携事業も増えてきました。福岡では“我らが”と言ってよい存在のソフトバンクホークスさん。3年ぐらい前にお話しする機会があり、「プロ野球として野球人口が減少している問題を抱えている」というお話をうかがいました。

野球人口のすそ野を広げるため、元プロ選手が小中学生に野球教室を開いたりしますが、元プロ選手は上達のための技術指導は長けているけど、そもそもグローブのはめ方であるとかキャッチボールの仕方、“ゼロからイチのところを教える”のはどうしてよいか分からない。当社は当時全国で1万人ぐらいの野球スクール会員がいたので、ホークスさんと提携して野球人口増加のための仕事が出来ないかという話になりました。

現在、正式にホークスさんと提携し九州じゅうに共同スクール「ポルテ×福岡ソフトバンクホークスベースボールスクール」を広げていくよう活動しています。鹿児島~宮崎~熊本~と九州各地でホークスのユニフォームを着た子どもたちが野球をやる環境を作り出しています。

少子化でたいへんでしょう?と聞かれることも多いのですが、私たちは実はそう思っていません。野球界には「子どもたちを先にサッカーに持っていかれる」とおっしゃる方もいるのですが、これはサッカーは受け入れ先が多いからだと思っています。子どもが参加できる野球チームの方が少ないんです、各地域にひとつだけ、とか。

つまりサッカーと比べて環境が限られてしまっているわけで、これを増やしてあげれば…と思っています。

それともう一つ当社の考え方として、種目を一つに絞る必要はないと考えています。野球とサッカーを週1日ずつやっても良いし、バスケットと陸上をやっても良い。確かに少子化ですが1人の子が2種目以上やったら良いわけです(笑)子どもには豊かな可能性があって、どんな種目が楽しいか、やりたいかはいろんなものを経験した方が良い。学年がもっと上がっていったらいずれ自分で選んだら良いと思います。

これには副次的な効果もあって、あちらの種目に生徒を獲られたくない!と指導員たちがより良いサービス/選ばれる上質の指導を目指すようになるんです。この相乗効果で、各指導者たちの底上げになっていき、ゆくゆくは日本のスポーツの質向上に繋がるのではないかと感じています。

—スポーツスクール事業から出発したリーフラス。部活動支援・プロチーム連携事業と広がる事業展開のお話に、社会的課題をしっかり見据えていらっしゃる様子がわかります。そのリーフラスがeスポーツに注ぐ目線とは…続きは次回!


【井上一馬】Inoue Kazuma リーフラス株式会社 上席専務執行役員 ソーシャルアクション統括本部副本部長 西日本エリア統括兼九州支社長

リーフラス創業時はサッカースクール指導員として従事。その後、東京進出・関東圏拡大の責任者として活動。種目の増設を行い現在は10種目を実施。M&A後の組織改革や新事業開発などを手掛ける。プロバスケットボールチームの取締役兼GMとしてプロスポーツの経営・運営にも従事。その後、専門学校にてスポーツマネジメント学科の新設に取り組み、教務・営業も兼ねる。現在は部活動の改善・施設管理・スポーツ療育(障害児支援)・体育授業支援・健康増進・地域活性化など、「スポーツ・教育・健康・地域」をテーマに様々活動を行っている。e-sportsが上記テーマと融合することでそれぞれが発展する可能性を感じてFercに参加。

【リーフラス株式会社】https://leifras.co.jp/

2001年創業、本社東京都港区。資本金/1億2,500万円(資本準備金含む)スポーツスクール運営/スポーツイベントの実施/スポーツウェア・グッズの販売ほか様々な事業を手がける。福岡eスポーツリサーチコンソーシアム団体運営会員。

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