eスポーツとゲームの健全かつ健康的な活用②臨床心理士・神崎保孝先生

2020.5.18

【研究者の眼】 臨床心理士・神崎保孝先生

eスポーツとゲームの健全かつ健康的な活用②
――「ゲーム症/障害」「モラルパニック」の攻略がもたらす新世代の文化――

参画研究者の知見をご紹介する「研究者の眼」。

第二回となる今回は、日本トップレベルのeモータースポーツチーム「ニワカゲームス」の指導者であり、「ゲーム症/障害(通称:ゲーム依存)」が新設されたWHOのプロジェクトにも参加協力経験がある臨床心理学の専門家、臨床心理士・神崎保孝先生のリモートロングインタビュー第二部をお届けします。

神崎先生は、大学・専門学校から高校・中学校・小学校までの各学校を受け持つ一方、学校の先生方の研修指導や保護者の相談対応にも携わっています。今回は、家庭で取り組める対策やケーススタディも含め、実践的に解説して頂きます。


エビデンスや説明の不足感

―――モラルパニックの予防法や対策について、具体的にありがとうございます。オンラインゲームについてもそうですが、自分自身の知識が追い付いていないことで、まことしやかな説に流されてしまいがちなことはよくあるなと思いました。「魔女狩り」もモラルパニックの実例だということで、無知や差別によって不安が連鎖していくことの恐ろしさを感じます。ちなみに、神崎先生ご自身は、ゲーム症/障害についてどのようなお考えでいらっしゃるのですか?

私個人の本音としては、先程ご紹介した国際的な議論にもあるように、現段階ではまだエビデンスや説明の不足感が否めません。ドーパミンとの関連性など脳神経系に関する指摘もあり、さらなる検証が待たれますが、ケース単位で見ると、ゲーム症/障害と他の精神疾患や社会病理などとの精査が課題になりそうです。「適用・診断できる疾患概念が増える」ということは、取りも直さず「精査・鑑別すべき疾患概念が増える」ということにほかならないからです。

例えば、あるメディアでゲーム症/障害の実例として取り上げられていた男性のケースは、昼過ぎから明け方までゲームを続け、食事とトイレの計3回しか中座せず、入浴も3日に1回で、貯金を切り崩す「ゲーム漬け」の生活が1年以上続いているというものでした。しかしながら、よくよく話を聞いてみると、男性の契機はいわゆる「ブラック企業」への就職で、指導係の先輩職員が過労のためにこの男性の目の前で倒れ、男性自身も毎日自殺念慮が生じていたとのことでした。当時の救いだったのがゲームの存在で、その後は退職を経て再起を図るものの再就職が立ち行かず現在に至るとの経過があり、現状では倦怠感・疲労感や体重減少が見られるとの内容でした。仮に今後、一般論としてこのようなケースがゲーム症/障害の典型例に位置付けられるとすれば、目下、知り得る限りの臨床観においては違和感を禁じ得ません。

このケースのほかにも、「ゲーム上の他のプレイヤーとの対人関係の悩み」や「ガチャへの過課金による金銭トラブル」などのケースを、ゲーム症/障害の実例として例示する報道が多く見受けられます。

しかし、臨床心理学的に見れば、ゲーム上で対人関係に悩みを抱える例では、学校・職場や、家族内、SNS上など、ゲーム以外の対人関係場面においても悩み・トラブルや孤独感・疎外感などを抱えているケースが現に多く見られ、ゲーム自体が問題というよりも、元々の本人の対人関係の在り方からの影響が見立てられます。無論、ゲームも含めたインターネット上の交流に伴う犯罪の被害・加害などは防がなければなりませんので、そのためのリテラシー啓発や、技術的な安全性向上の取り組みなどが必要なのは言うまでもありませんが、少なくとも「ゲーム上の対人関係の悩みは、ゲーム自体に起因するもの」と一般化されて受け取られかねない報じ方は、因果関係が不正確ではないでしょうか。

翻って、「ガチャ」をめぐる問題に関しては、私自身も非常に深刻に捉えているところです。

有料ガチャ+Pay-to-Win

―――その男性のケースについての報道は私も見ましたが、ブラック企業のトラウマの実例かと思いきや、ゲーム症/障害の実例だということだったので混乱しました。本人の元々の人間関係の問題についてもそうですが、必ずしもゲームが原因でないことまでゲームの問題点だとする風潮には首を傾げたくなります。続いて、「ガチャ」の問題についても詳しく教えてください。

ガチャとは、確率性によるアイテムなどの提供方式で、海外では「ルートボックス」という方式に相当します。このガチャをめぐっては、2012年に消費者庁により「コンプリートガチャ」と呼ばれるタイプのみ景品表示法に抵触するとして規制対象になったことで根絶されましたが、それ以外のガチャは規制対象外であるため、有料・無料を問わず現在も存続しています。特に、スマートフォン用のゲームにおいてよく用いられる方式であり、「Free-to-Play」と呼ばれる基本無料を謳っておきながら、実態は課金した金額が勝敗を左右するシステムである「Pay-to-Win」との組み合わせも見受けられます。

臨床心理学的には、確率性であるガチャにはギャンブルと共通する特性が見立てられるため、有料のガチャは、課金からガチャを回すまでの一連の「課金行動」そのものを反復したくさせる構図となります。加えて、Pay-to-Winのシステムでは、「競技の技術の高さ」よりも「課金の金額の多さ」が勝敗に直結するため、ますます射幸心を煽り、課金行動を抑制しにくくさせる作用が認められます。すなわち、「有料ガチャ+Pay-to-Win」の組み合わせには、理論上、極めて高いギャンブル類似性が見出されることになりますので、利用に際しては細心の注意を払う必要性があると言えましょう。

ただ、一方で、このようなゲームデザインを用いるゲームは一部です。また、「極めて高いギャンブル類似性のあるゲーム」ということは、「パッケージはゲームだが、内実はギャンブルに相違なし」と換言できます。したがって、事実上ギャンブル様のケースをゲーム症/障害の代表例として取り上げることには、違和感が否めないばかりか、事の本質が誤って伝わる恐れさえも窺われるところです。

他方、当事者の臨床心理に鑑みても、実質的には「競技としてのゲーム」ではなく「ギャンブルとしての課金行動」への病的なのめり込みによる金銭問題と分析されますので、ゲーム症/障害とは別建てで、以前から既にICDやDSMに存在していた「病的賭博/ギャンブル障害」の方に、より整合性が見立てられます。例えば、現行のICD-10で「病的賭博」として規定されている「貧困になる、家族関係が損なわれる、そして個人的生活が崩壊するなどの、不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続し、しばしば増強する」との診断項目、および、同じく現行のDSM-5で「ギャンブル障害」として規定されている「興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする要求」「賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む」などの診断項目は、ガチャ特有の過課金による金銭トラブルにオーバーラップします。現に、海外では、規制当局によって有料ルートボックスがギャンブルと位置付けられている国がある上、プラットフォーマーであるAppleやGoogleも対策に乗り出しており、世界的にギャンブル性を論拠とする規制強化の流れにあります。

いずれにしても私としては、特に学生年代の利用者のためにも、ゲームとギャンブルには明確に線引きを行うべきというスタンスです。また、ゲームの中でもとりわけ競技性の高さを追及するeスポーツPay-to-Winのシステムは、全く相容れないものだと確信しております。アドバイザーを務めているeモータースポーツチームの選手たちも、秒単位以下のレースタイム更新を目指して日夜トレーニングを積んでいますので、万が一にもPay-to-Winが蔓延するような事態になれば、その努力の価値が根底から覆されます。何より、eスポーツを観戦してくださるみなさんにとっても、「腕比べ」ではなく「金比べ」が実態となれば全くもって面白味のないことと思いますので、最早、映像コンテンツとしての魅力も失われてしまいます。ついては、喫緊として学生年代の利用者の保護、ならびに、今後のeスポーツやゲームの健全かつ健康的な活用を図るため、業界の自主規制と日本国内の法規制のさらなる適正化を望む次第です。

競技性の高さを追及するeスポーツと「Pay-to-Win」は全く相容れない【2019年撮影】

3つの注意点

―――ガチャのギャンブル性の心理学的な問題点について、大変納得しました。国によってはガチャがギャンブルとされている状態で、理論的にも「ガチャ=ゲーム」ではなく「ガチャ≒ギャンブル」だと言えるので、ガチャの問題はゲーム症/障害という概念とは異質のように感じます。日本も、子どもたちや、eスポーツを行う方や観る方のために、ガチャの問題についてより一層の法整備が必要だと思います。さて、ゲーム症/障害にならないようにするためには、家庭でどのようなことに気を付けたら良いのでしょうか?

まずは初歩的なことですが、ゲーム時間などの利用ルールを、ご家庭の中で本人と話し合って決めることが第一歩です。そして、ルールとは「決めるため」ではなく「守るため」にあるものですので、当然ながら、決めた利用ルールはしっかりと守られるようご指導をお願いいたします。ちなみに、私が小学生時代の神崎家では、ゲーム時間は最初は30分間でした。その後、例えば「勉強を頑張るので、テストで○位以内に入ったら○分増やしてください」「その代わり、○位以下に落ちたら○分減らします」という形で、両親と時間交渉をしていきました。本人の学業などへのモチベーションを維持向上させるため、利用ルールをうまく活用して頂けると戦略的です。

第二に、ご家庭での利用ルールを、協力・対戦プレイの相手と適宜共有できれば効果的です。もちろん、ランダムマッチングの相手とまで共有する必要性はありませんが、学校の友人などと一緒にプレイをしている場合には、あらかじめ予定時間の同意を得ておくことで、利用ルールを守りやすくなるものと考えられます。ただ、思春期年代のお子さんの場合は、「家でゲームの利用ルールが決められていること」を友人などに知られることに対して抵抗を感じる可能性がありますので、例えば「○時からは○○の予定がある」など、本人の自尊心を損ないにくい別の伝え方をご指導頂いた方が良いかと思います。もしも、それでも必要に応じた伝達まで拒む場合は、先述したように元々の本人の対人関係の課題がゲーム上にも持ち込まれている心配があり、日常的に学校などでも本人が友人に意思をうまく伝えられないなどのケースがあるかもしれませんので、ひとつのサインとしてご観察頂ければと思います。

そして第三に、ガチャの項目でお伝えしたように、有料ガチャとPay-to-Winの組み合わせがあるゲームに関してはギャンブル様の射幸性の高さが認められますので、利用そのものを避ける方が無難です。ただ、有料ガチャの有無は確認しやすい一方、そのゲームがPay-to-Winに該当するか否かは、実際のプレイ経験がないと判断が付きにくいかもしれません。そのような場合は、可能な限りお調べ頂くとともに、本人から課金の希望があった際、「課金したら強くなるの?」との質問に対する答えがYesならば、おおむねPay-to-Winと捉えて差し支えないと考えられます。

なお、念のために申し上げますと、決して「課金=悪」ではなく、「課金が止められなくなること」が不幸です。例えば、私が小学生時代に買ってもらったスーパーファミコン用ソフトの「ストリートファイターII」は、定価9,800円でした。つまり、ソフトを手に入れると同時に「9,800円の課金」をしたことになりますが、もしもこの課金を悪とするなら、それは経済活動の否定と言えましょう。一方、近年のゲームには、ダウンロードからプレイまでは基本無料で、アイテムなどの販売によって収益を得るビジネスモデルがあります。有料ガチャも広い意味ではここに含まれますが、キャラクターの見た目のカスタマイズ用アイテムなどの勝敗を左右しないアイテムを、ガチャの方式を取らずに販売しているものもありますので、そちらのタイプへの課金であれば有料ガチャでもPay-to-Winでもありません。

見過ごされている要因へのアプローチ

―――3つの注意点への取り組みは、本当に大切だと思います。特に、家庭でルールを決めていても、いつの間にかなおざりになってしまいがちなので、そこも気を付けなければと思いました。おっしゃる通り、「物の購入=物への課金」だと言えるので、そこにギャンブル性がなく、お小遣いの範囲などで納まるようなら、ある程度は問題ないような気がしました。もし、教えて頂いた注意点に取り組んだ上でも、我が子がゲーム症/障害かもしれないと不安になってしまった時は、どうしたら良いのでしょうか?

少しケーススタディで申し上げますと、逆説的ですが「本当にゲームが原因で現在の状況に至っているのか」という視点に立って、俯瞰で全体像を見直すことから始めると良いと思います。例えば、小児や学生の不登校のケースにおいて、自宅でゲームへの没頭が観察されると、ゲーム症/障害の状態に当てはまるのではないかと疑われる傾向にありますが、そのようなケースでは必ずと言って良いほど「学校に馴染めない他の要因」がどこかに隠れています。その要因とは、いじめを含む対人関係上の問題の場合もありますし、学力適性とのミスマッチの場合などもあります。メンタル面の関与では、各種の発達特性が影響している場合や、「心身症」というストレス相互性の様々な身体疾患がネックとなっている場合なども多く見られます。

気の毒なことにこれらのケースでは、本人としては学校に行きたい気持ちがあっても、対人関係や心身の状態が不安定なため結果的に登校できない「失敗体験」が繰り返されることで、自宅でただただ休んでいるだけのように見えたとしても、実のところは自己嫌悪や劣等感・不安感などの蓄積に人知れず耐え続けているということが少なくありません。そして、そのような時に気を紛らわせてくれるのがゲームである場合があります。

こうした前後関係にあるケースを「ゲームが原因の不登校」と呼ぶのは不正確で、むしろゲームの存在は、本人にとって救いとなっている側面が見立てられます。私の臨床持論ですが、全ての行動には、たとえ傍から見れば「問題行動」であっても、実は本人にとっては「必要行動」「防衛行動」であるという多面性があります。すなわち、ゲームへの没頭という行動によって、本人は「どのような必要性を満たしているのか」「どのような物事から身を守っているのか」という臨床心理学的な分析を行っていく作業が、本例に象徴されるようなケースに際してはとりわけ重要であると考えます。

なお、スクールカウンセラースーパーバイザーとしての立場からの私見ですが、このような一連の対応をご家庭の中だけで行うことは難しいと思いますので、各学校に定期来校されているスクールカウンセラーの先生にご相談頂くのが良いと思います。ご相談の中で状況を整理して頂き、必要に応じて助言を仰いでください。受診すべき状態か否かについては、一般的には、スクールカウンセラーの先生のご所見にて必要性が認められた場合、医療機関への紹介などの然るべき対応をお取り頂けるものと思います。ただ、いずれにしても、単に本人からゲームを遠ざけて矮小化するのではなく、申し上げたような見過ごされている要因へのアプローチとセットで支援を行うことが、本人のためには不可欠です。

【神崎保孝】ニワカゲームスeモータースポーツチーム メンタルアドバイザー 

臨床心理士指定大学院修士課程~博士課程を経て臨床心理士登録。

教育庁教職員メンタルヘルスカウンセラー・研修講師、教育委員会SCスーパーバイザー、精神保健福祉センター自殺対策・自死遺族ケアカウンセラー、急性期・回復期総合病院アドバイザー・カウンセリング専門外来、商工会議所アドバイザー、民事訴訟事件裁判鑑定人、政策研究ネットワーク委員などを歴任のほか、私立学校教職員・保護者の年次全国会議における記念講演者、近県の医療機関が参集する専門研修の特別講師などを務め、WHOのプロジェクト、熊本地震の災害派遣、殺人事件・人身死亡事故・自死・いじめケースの心のケアなどにも参加協力。

国内のeスポーツ業界初、心理学の臨床家として顧問契約を締結したeモータースポーツチーム「ニワカゲームス」は、茨城国体で銀メダルを獲得するなど日本トップレベル。

福岡eスポーツリサーチコンソーシアム運営正会員。

【連絡先:inquiry_kanzaki@yahoo.co.jp】